Botanical Thinking

(この文章は、書籍用原稿「Botanical Thinking」から「はじめに」の一部を転載したものです。)

【植物から受け取った知恵】

植物は生物です。

すべての生物には生きる目的があります。

仮に地球上の動物が絶滅したとしても、植物の多くは何事もなかったように、その目的のために生き続けることでしょう。

植物が行うことのすべてには、その植物にとっての意味があります。

成木となった樹木は、光や水、養分が豊富だからといって、自分を支えられないほど、また他の木々を覆い尽くすほど、そして下草に陽が当たらないほどには生長しません。

成木は日陰を好むシダのような植物を生かし、そのシダは成木の根もとの土の乾燥や流出を防ぎ、自らが分解されることによって成木がそこに立ち続けることを支えてもいるのです。

「自然界は競争がすべてであり、強者、適者が生き残る」

これが自然の法則であると考えられがちですが、それが正しければ4億7千万年とも言われる陸上の植物の歴史のなかで、最も強い植物が陸上のほとんどを制覇しているという状況になっているはずです。

しかし、現実の原生林は、実に多種多様な植物が複雑にかかわり合いを持ちながら共生し、調和した様相を保っています。

このような森を洞察すると、「森という環境を植物が共同して創造している」としか考えられない、植物の共生のすがたを見ることができます。

そして、「他の種を駆逐してしまうことが、自らの種が生きる環境を破壊してしまう」ことをまるで「知っている」かのように感じられるのです。

森は「植物のビジョン」の結果です。

植物のビジョンとは、

「個々の植物が生きることによって成しとげられる環境への調和と環境の創造」

であるとわたしは考えています。

とはいっても、

「植物の世界も適者生存、弱肉強食的に強いものが生き残り、繁栄しているのではないか?」

という疑問も生じることでしょう。

しかし、植物が競争しているように見えるのは、私たち人間が、人間の社会における競争という概念をフィルターとして植物の生きるすがたを見ているためではないでしょうか。

そもそも植物界には敵など存在せず、植物界としての共通のビジョンである「調和」をめざし、それぞれの個体が種としての継続性を持ちつつ、その個体だけが持つ環境に適合して生きているようにも見ることができます。

これは、一つのビジョンによりすべてが統制されるというものではなく、個と全体が双方向で影響し合うことで成立しています。

このような視点で森を外側から見ると、そこに立つ無数の木々は私たちの社会であり、その一本の木はわたしたち個人と重なって見えてくるのです。

【白神山地で得られた答え】

世界自然遺産「白神山地」。

そこには、ありのままの広大な森が連なる、世界最大のブナの原生林が静かに息づいています。

そこにある樹木や植物に一つとして同じ形のものはありません。

その樹木や植物の一本一本、ひとつひとつにはそれぞれの物語があり、物語はその樹木や植物のかたちに表れています。

そして、その森のなかには、外から見るだけではわからない、神秘に満ちた植物の世界が広がっているのです。

私は、白神山地のふもとに暮らしています。

その時々の仕事や人生の課題を解決するため、自分のビジョンを見いだすため、そして自分が感じたことや考えたことを確認するために、わたしは折にふれ白神の森に入ってきました。

幼少のころから誰から教わるでもなく、農産物を育む日光と雨をもたらす気象の絶妙なバランスを感じ、その光と水によって生育した農産物を食べることによって生かされていることを思い、自然への畏敬の念を感じて育った私には、それはとても自然なことでした。

原生の森のなかに、静かにたくましく生きる植物のすがたを洞察することによって、わたしはその時々の状況に必要な「答え」を見いだすことができたのです。

そしてその「答え」は、いつも確実性と普遍性をもちつつ、現実的なものでした。

【Botanical Thinking】

私は、経営コンサルタントであり、パーソナル・コーチでもあります。

今まで多くの起業家、経営者、ビジネスパーソンとかかわってきました。

クライアントのほとんどは、はじめは目の前の今日的なビジネス上の問題や課題を解決したいというニーズを持っています。

それに対しわたしは、「仕事と人生は分離できないものである」との考えから、クライアントには、いかなる問題、課題、目標であっても、ビジネス上のことだけではなく、「その人の人生全体を俯瞰しながら、今日的なサポートを行う」という方針で接してきました。

振り返ると、そこには、常にベースに「植物の生きるすがたから学んだ知恵」があったのです。

「森を見て木を見ず」、「木を見て森を見ず」の状態にあるクライアントには、「植物の生きるすがたから学んだ知恵」が大いに影響を与え、成果をもたらすことを、わたしは身を持って経験してきました。

現代社会のビジネス環境は複雑さを増しており、成果を出すことがより困難になってきています。同じように、話しても説明しても伝わらない、まるで壁があるかのようなコミュニケーションの問題や、個人の人生での幸せ、自分らしさ、やりがい、生きがいを見いだしにくい状況になってきています。

これら仕事と人生の課題を解決するためには、付け焼刃のノウハウやテクニックではなく、より本質的で確かな有効性を持った方法が求められています。

その方法として、「植物のすがたからインスピレーションを受けとり、そのインスピレーションから何かを感じ、その感覚の意味を考え、現実としての仕事や生活に活用する」ことを「ボタニカル・シンキング」と名づけ、紹介することとしました。

ボタニカル・シンキングは思想や哲学でも科学、理想論でもなく、また、植物のように生きることや、植物を崇めるということでも、単純に古代の人間のように生きるということでもありません。

植物が27億年もの間をかけて実践し、実証してきた、とても洗練された生き方(プログラム)から現代に生きる私たちが学び、物心ともに豊かに生きることが目的とする、人間だからこそ活用できる方法です。

そして、それは、対人的な理論や知識の壁を取り払い、瞬時に解を導き出すことができる、現代を生きる私たちに必須な思考法であり、究極の癒やしの方法です。

少しのあいだ、日常のわずらわしさから離れ、思考することを休み、植物からのポジティブなエネルギーを感じるために五感を遊ばせてみましょう。本書を読み進めることによって、それぞれの人生において困難に立ち向かうための生きる勇気と希望を持つことができるでしょう。より良く生きたいと願うすべての人に、本書がそのきっかけとなることを祈っています。

さあ、それでは明るく清々しい白神の森にご案内しましょう。

森から帰ったあなたは生命力にあふれ、今まで気づかなかった斬新なアイデアを思いつき、仕事や生活、人間関係に前向きになるなどの変化を得られることでしょう。

葛西 幸浩

 

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